2020年4月22日更新
プロフェッショナルとしての倫理と行動設計A(第1回:2020年4月22日)
課題D東京大学論文捏造事件に関するレスポンスシート(暫定回答)
0.所属する研究室で、このような研究不正が起こる可能性があると思いますか?
ある:4名
・教授の専門と学生の専門が異なり,教授が個々の研究の回路,プログラム,実験データ等についての詳細まで確認することは難しい.一つの研究室でロボットに関する機構,制御システム,人工知能など多岐にわたる研究を行っているため,学生間でも不正を気づくことができない.
・現状では限りなく不正をする可能性はないが、今後どのような学部生、院生が入ってくるかわからない。また、教授に対しても今後どのような心境になるかは他人の自分としてはわからない。
・可能であると思う。ない:3名
1.川崎助手(当時)はなぜデータを捏造したのでしょうか。1)あなたが考える理由を列記しなさい。また、川崎助手は、2)何を目的として研究をしていたと考えられますか。
1)「競争的研究費」の現状、また学会誌や研究支援機構、教授からの大きな信頼と期待による早期の成果提出に対する重圧が原因でねつ造に至ったと考える。
1)教授にその分野の実験技術を持つ専門家として,研究室に呼ばれた彼に対する期待があり,プレッシャーとなっていた.実験結果の優劣によって,教授の態度に差が生じる研究室の雰囲気がプレッシャーになっていた.教授がその分野について精通しておらず,研究室内での発表においても,実験の詳細に関する質問等がなく,不正のハードルが低かった.捏造したデータを教授に見せても評価され,論文誌にも掲載されるため,成功体験として定着してしまっていた.
1)研究費を確保するため、多くの著名な論文集へ寄稿しなければならないという重圧から、焦ったためだと考える。
1)川崎助手がこのような研究データの捏造をした理由は、多比良教授から認めてもらいたかったことが大きいと思います。多比良教授の元研究員の方が話していたように、よい研究結果を出す人を可愛がり、そうでない人への発言は厳しいなどといった研究室の雰囲気であれば、認めてもらいたいという気持ちは必ず出てくると思います。その研究室に30人ほどいたということで、ライバルも多いため、そういった気持ちは大きかったのだろうと思います。その分野の知識があまりない教授ならば、捏造しても気付かないだろうからしてもいいだろう、もし何かあっても責任をとるのは教授、という考えがあったように思います。
1)川崎助手は助手という立場であったが、今後研究をしていく中で立場をステップアップさせるために研究の成果を捏造してしまった。また、これまでにも研究成果を出していたため、出さなければいけないというプレッシャーや自負もあったと考える。研究費が欲しいがために捏造したとも考えられる。
1)必ず実験の成果を出さなければいけないという焦りから捏造をしてしまったのではないかと考える。
1)捏造であったとしても、再現性を言い訳にして捏造バレないと高を括っていたため。また、実験の成功によって得られる金と名声に目が眩んだため。教授に気に入られる為に捏造を行ったと考えられる。2)siRNAという難病の治療などに役立つ物質を増やすことで、多くの人の命を助けることよりも、何か研究でよい結果を出すことが目的になっています。そして、捏造をしてしまう頃には、捏造でも何でもいいから結果を出して教授に認めてもらうこと、が川崎教授の研究目的へと変わっているように思います。
2)教授に気に入られる為に研究を行っていたと考えられる。
2)研究を発展させる目的で行っていた部分もあると思うが、研究者としての自分の立場を守ることの方が、目的として大きな割合を占めていたのではないかと考える。
2)最初は社会的に産業的に役に立とうと研究を行っていたかもしれないが、次第に自分の社会的な立場、研究者の立場の確立のために研究をしていたのではないかと考える。そのため、捏造という問題を起こしてしまった。
2)自己の昇進(助教授・教授)や周りからの期待を維持するためだと考える。
2)他の研究員よりも一歩前に出たいという目的で研究をしていたのではないかと考えられる。
2)彼が研究を始めた初期については,想像が難しい.しかし,問題となった研究に取り組んでいる際には,研究室内での自分の立場や評価の維持,権威のある論文誌に掲載されることによるキャリアアップを目的としており,科学技術の発展への寄与などの研究者として理想的な目的は持っていなかったと考えられる.
川崎助手は研究の結果が欲しいためにデータを捏造したと考える。論文作成時の競争的社会の影響により論文を多く出すことや引用されやすい論文誌に提出することが成果としてみられる風潮が強かったため、実験の結果として優れているものが必要であり捏造をしてしまったのだと考える。また、助手としての立場を維持していくことを目的として研究をしていたため良い結果を出すことに強く縛られ不正につながったと考える。
2.多比良(たいら)教授(当時)は、1)なぜデータの捏造に気がつかなかったのでしょうか。また、多比良教授は、2)何を目的として研究をしていたと考えられますか。
1)その分野に関して、あまり知識がないことがデータ捏造に気付かなかった1番の理由だと思いますが、自ら知ろうとしていなかった、データの内容などの細かいところにまで踏み込んでこなかったという元研究員の話が本当であれば、その分野や科学研究に対する教授の姿勢が、気付かなかった(気付けなかった)理由だと思いました。研究全体の設計は教授が行い、研究は助手たちが行うという分業体制であれば、知識のない分野において自分よりも研究している助手たちへの信頼も大きかったため、助手が出したものなら大丈夫だろうという気持ちもあったのだと思います。
1)自身の専門分野とは違う内容の研究内容であったことと、研究の詳細は川崎助手に完全に任せていたためであると考える。
1)自分の専門ではない分野のため,助手に任せっきりとなり,論文の中身についても十分にチェックできていなかった.論文の捏造についての可能性を軽視しており,その対策や指導を怠っていた.助手などが行っている実験の詳細について知ろうとしなかった.教授が「助手が目を見て言うから」と言うように,研究に対してデータではなく,人間を見て判断していた.
1)川崎教授に対しての研究実験の放置、つまりコミュニケーション(進捗報告・研究方針確認など)の欠如が原因だと考える。
1)川崎助手がいままでに結果を出していたため、信頼がありすべてを任せすぎた。その結果、教授と助手との間にコミュニケーションがなくなりこのような結果となった。また、もともと踏み込んだ研究の中身については日々の話し合いでも話し合わなかったため、何が正確で何が誤っているのかの知識も身についていなかった。
1)川崎助手と話合いをする機会があったにもかかわらず、川崎助手を大きく信頼しすぎたことから、川崎助手の発表を信用し、研究の内容を詳しく確認しなかったから。
1)川崎助手に実験をすべて任せきりにしており、データを深く観察せずに放置していたため。また、川崎助手を信頼していたため、データが捏造であることを疑わなかったため。2)RNAに関する新たな研究成果を得ること。また、論文誌提出などによる研究費の確保が目的と考える。
2)この教授のもともと研究していた分野ではなく、今後発展するであろう分野だから取り組はじめ、それから人材を集めたということから考えると、この分野を研究したい!という感じではなく、研究者として評価されたい、新たな分野の先駆者になりたいというような、研究の内容ではないところに目的があるように思います。
2)画期的な発見を目的に研究をしていたと考えられる。
2)研究の成果を出した人に対しては優しくして、出していない人には厳しくしていることから、研究の結果を出すことに力を注いでいた。成果を出すことで研究費も多くもらえ、より研究の成果を出しやすくなり自分の立場も上がるため、研究していたと考える。
2)研究分野を発展させる目的で行っていたと考える。そのためには、継続的に研究資金を得なければならないため、自身の専門分野ではない分野の研究を行い、多くの有効な研究結果を求めたと考える。
2)実績と研究費を目的に研究を行っていたと考えられる。・多比良教授がデータの捏造に気づけなかったのは自身の分野外の研究に携わっていたからだと考える分野外のことだっため、検討会などでも踏み込んだ質問を行わないことや実験に立ち会わないなど専門的な知識を持ち合わせていないことから生じた問題だと考える。また、結果が認められないと研究費が出ないという競争的社会の背景に強く影響され、自身の研究室の維持や化学分野での良い結果を目的としていたため今後の発展が見込める専門外の分野を開拓してしまったのだと考える。
3.多比良教授の研究室で重視されていた価値にはどのようなものがあると思いますか。列記した上で、自分が所属する研究室で重視されている価値と比較して下さい。
1)多比良教授の研究室では、より多くの研究成果を出すことに価値があったと考えられる。
1)著名な論文集に掲載できるような、画期的な論文を多く作成すること。
1)多比良教授の研究室では、研究の新規性[通常は「新奇性」]を重視していると思った。
1)多比良教授の研究室では、@完全なる研究の「計画・方針」と「実験」の分担、A研究成果 が重視されていたように思う。
1)多比良教授の研究室では、研究の結果が出せるかどうかが重視されていたと思います。私が現在所属している研究室では(内部進学ではなく、入ったばかりなのでわかる範囲ですが)、研究の結果によって学生への対応が異なるということはないと思います。
1)多比良教授の研究室では、主に良い実験結果のみが重要視されていたと考えられる。2)自分が所属している研究室では今後、建築が発展していくために建築の理解、実践の場で必要なものを作り出すことに価値があると考える。
2)自分の専攻科では建築デザインの意味合いが強く、さらに情報系でもあるため競争性は薄いと感じた。それと比べ、多比良教授の研究室では、競争性が強く、より結果を出さなければいけないという風潮が強い。また、自分の2)[自分が所属する]研究室では、結果を出すことは重要だが、その結果が将来的にどんなことに使われていくかを重視している。多比良教授の研究室では、当然将来的な使われかたも重視していると思われるが、それ以上に競争性が強いため結果2)を出すことに価値があるようになってしまった。
2)2)研究結果が予想とは違っていたとしても、そうなった原理を考察し、解明すること。
2)自分が所属する研究室では、研究内容の正当性を重視している。
2)自分が所属する研究室では、生徒に対する研究の自立性を重視している。もちろん成果も重視されるが、先生の研究をアシストするのではなく、各自で研究テーマを持っているためこのような自立性を重視する傾向があると考える。
2)私の研究室では、みんな(先生も含め)が、オープンな雰囲気や同じ立場で向き合おうとする意識が感じられますが、これと比較すると、多比良教授の研究室は、分業体制や教授の対応などからわかるように、研究の進め方や体制を話し合うというよりは、自分の役割のみを果たす個人が集まっているような感じがして、雰囲気が違うなと思いました。
2)私の研究室では、実験結果の良し悪しに関係なく、正確なデータが取れているかが重要視されているため、多比良教授の研究室の様な成果主義の研究室とは明らかに異なる。・[多比良研究室では]研究室や教授に利益となる良い成果が価値として重視されていたと考える。自身の研究室ではその分野で研究をしてみて正しい成果・問題点を出し、専門分野の発展につながることを利益として重視していると考える。
4.このような問題が起こらないようにするためには、どのような方策があり得るか考えてください。
・教授と研究室のメンバーがよりコミュニケーションをとることが大事だと感じる。研究をしている人たちは、逐一研究の進み具合などを教授に報告をし、教授もその結果を見て何をして何が出たのかを理解する必要がある。さらにそのデータが信ぴょう性のあるものなのかも確認して進めていく必要がある。また、教授と研究室に所属する人達の考え方の共有も必要だと考える。今後この研究がこの分野においてどのような結果をもたらせていくのかなど、将来を見据えていく力も養っていかなくてはならない。他にも、定期的に捏造といった問題を起こさないためにも、危機管理の徹底をする集まりがあってもいいと考える。
・教授が把握できない分野の研究は行わない。論文が完成した際に、必ず同じ専門分野の人間が確認する。不正が発覚したとき、どのような事態になるのかを周知する。
・研究室内の雰囲気作りが大切だと思いました。研究結果の正当性を確かめるための第3者立ち合いの実験を拒否した川崎助手を見ていると、1番身近な存在のはずの教授にも相談できていないのかなと思いました。思ったこと、気になっていることなどが言いやすい研究室であれば、捏造された論文が出される前のどこかで、止められていたかなと思います。また、社会に対してもオープンであるべきだとも思いました。そして、1人1人の研究に対する考え方も改めるべきだと思いました。何が目的で研究しているのかを見失わない個人個人の考えがしっかりないといけないと思います。
・自身の知識・分野に沿った研究に関わることが問題を起こらないようにするための方法だと思う。また、実験の道筋をしっかりと記録しそれを基に論文を書いていくことが方策としてあり得ると考える。自分以外が論文を読み、正確に結果を再現できるように記すことが重要だと考える。
・実験には必ず教授が1回は立ち会う。話し合いの場では、研究の詳しい内容について質問する。実験記録を残す。
・成果にこだわらず、良質で正確なデータを取得する研究施設に研究費を融資するような体制になれば、このような捏造を防ぐことができると思う。また、定期的に実験ノートの提出や再現実験を行うことによって、捏造を防ぐことが出来れば、防止案の一つとなるだろう。
・生徒[正しくは「学生」]は先生に対して、適当な進捗の説明・報告、さらに自らが考える方針などの意見の共有を積極的に行う必要があると思う。教授は生徒がコミュニケーションを取りやすい環境を作るために、定期的なミーティングを行う必要があると思う。
5.この事件に関するあなたの感想を述べなさい。
・はじめは[この捏造が]、教授と助手が協力してやったことかと思いました。しかし、この映像の内容が事実とするならば、この教授の研究に対する意識や助手たちの研究目的のズレなどが重なり、どんなところでも起きかねない問題であると思いました。私が、学部時代にいたゼミは、倫理観はかなり問われる分野ではありますが、科学のように事実がすべてというような分野ではないため、今後、この大学院で研究を進めるにあたり、しっかりと学ぶべきことだと感じました。
・研究の成果を不正することは、多くの人々を危険にさらすことになるため、技術者としてあってはならないことだと思う。しかし、競争の中での多大なプレッシャーなどが影響して、それが起こる可能性が常にあるのも事実であり、明確な解決案はないのかもしれないと感じた。技術者1人1人が常に考えるべき問題だと思う。
・研究の論文を教授が細かな部分まで確認せずに提出しているところがおかしいと思った。研究の細かなところは、若い人しか分からないと述べていたが、分からないながらも、分かろうとする努力は必要だと思った。
・自分の能力に応じた研究に携わっていないことや実験の記録をせず事実を正確に述べようとしていない環境だったことが問題だと考える。自身の利益を重要視せず、社会に成果な情報を伝えようする姿勢が研究者には求められると考える。
・成果のみを重視する研究体制に問題があったのではないかと思う。また、教授の実験に対する低い心意気も今回の捏造を発生させてしまった原因ではないかと感じた。また、成果を得ることが出来ない助教授の就職先など、実験の成果がその後のキャリアに大きく関わってしまうことも要因の一つであると感じた。
・昔から信頼されてきた「科学」の信憑性を落とすようなことは、科学者・研究者としてするべき行動ではないと考える。しかし、現実として名だたる研究機関がこのような事件を起こしている以上、私自身も気を引き締める必要があると感じた。競争的な環境や周りからの期待によってねつ造が頭を過ぎるかもしれないが、それを防ぐためにもこの授業を通して研究者としての倫理感を養い、常に指導教員などへの正直な状況報告、そして研究の証拠となるノートの管理などが必要だと感じさせられた。
・多比良教授と川崎助手は、両人ともに結果を出すことに重きを置いてしまったのではないかと思う。研究の前提として、その成果が社会の発展のために使われていくことを念頭に置かなくてはならないと感じた。また、自分の研究室では、競争性というものがあまりないため、自身の置かれている立場によってはこのような問題も起こってしまうのだと怖さも感じた。捏造による問題も個人的な問題ではなく、立証する時間、お金、信用といったように様々な面に対して迷惑をかけてしまうため、今後研究を進めていく際には、その背景まで考えて研究していくべきだと感じた。
西村が担当する授業の様子は、<nishimura-sensei.net>で公開しています。できるだけ、授業当日に更新するように心がけています。